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「ステーブルコイン」で社会を変える。JPYCがFINOLABで描くイノベーションとは?

暗号資産マーケットは可能性と課題を交錯させながら進展を遂げています。そのなかでも昨今、注目を集めているのが「ステーブルコイン」です。法定通貨と連動することで価値の安定性を保ち、従来の暗号資産とは一線を画すこの通貨は、納税やインセンティブ、少額送金など、多岐にわたる用途で可能性を広げています。本記事では、日本初の円建てステーブルコイン「JPYC」を展開するJPYC株式会社の岡部典孝氏に、社会課題に挑む新しい通貨の価値の革新性と展望についてお聞きしました。
「円建てステーブルコイン」が選ばれる理由とは?
―ステーブルコインの基本的な概念について、改めてお聞かせください。
ステーブルコインは、法定通貨と連動した価値を持つブロックチェーン上の決済手段で、アメリカでは既に広く普及しつつあります。日本ではこれからが本格的な普及期に入ると予想しています。
―ステーブルコインが普及する背景を教えて下さい。
ステーブルコインは2010年代中盤から存在していましたが、本格的な成長は2019年から2020年頃に始まりました。
ステーブルコインの最大のメリットは「価値の安定性」です。ビットコインに代表されるような暗号資産は価格の変動が激しいですが、ステーブルコインは法定通貨の価値に連動しているため、その名の通り比較的「安定」した価値を維持します。これにより、決済手段や海外への少額送金などでさらなる活用が見込まれ、他の暗号資産取引の仲介役としても重要な役割を果たすと考えられています。
―実際に、ステープルコインはすでに流通していますか?
はい。例えば米国では、暗号資産取引所でビットコインとUSドルのステーブルコインのペアが作られ、取引通貨として広く使用されています。
―USドルのステープルコインがある一方、JPYCはなぜ日本円建てのステーブルコインを提供しているのでしょうか?
日本の企業や個人は、円建てで会計や納税を行う必要があります。ドル建てのステーブルコインの場合、為替の問題が生じ、会計や税務が複雑になってしまうため、円建てのステーブルコインのニーズはあると判断しました。
現在、JPYCのステーブルコイン発行額は約30億円です。毎月1億円以上のペースで増加しており、この成長率こそ、ステーブルコインへの需要の高まりを示しているといえるでしょう。
また、日本人にとっては円の方が価値の尺度としてわかりやすい。例えば「100ドルは日本円でいくら?」と言われても、現時点のレートで何円になるのかピンとこないですよね。その点、円建てならば直感的に、その価値がわかります。
―JPYCの主なターゲットは日本国内ということでしょうか。
現段階では日本国内の需要が中心です。ただし、日本と取引のある外国企業なども利用する可能性があります。将来的には、日本との経済的つながりが強い国々で使用されると見込んでいます。
納税から企業利用まで。ステーブルコインの新しい可能性
―JPYCはどのように使われていますか?
まず、私たちはプリペイド型で、ステーブルコインの提供をスタートしました。提供準備当時、ステーブルコインの資金移動型や銀行型での発行は規制上認められていませんでした。しかしプリペイド型は比較的規制が緩やかで、許認可のハードルも低かったため、まずはそこから参入することを決めた経緯があります。
加えて、規制上1,000万円未満の自家 型発行であれば届出すら不要だったため、私たちのようなスタートアップにとって参入しやすいのも大きかったですね。これにより、迅速に市場に参入し、サービスを展開することができました。
現在の用途として、金額ベースで見ると最も多いのは「納税」です。特に暗号資産で資産を保有している方々にとって、JPYCは有効な納税手段となっています。
―具体的にはどのような仕組みで、納税に利用されているのでしょうか?
日本では暗号資産の売却益に対して最大55%もの税金がかかってしまうため、暗号資産で大きな利益を得た、いわゆるクリプト長者の多くは保有する暗号資産を貸し付け、その金利収入として米ドル建のステーブルコインを得るなどしています。そのステーブルコインを海外DeFiマーケットでJPYCへと交換することで、日本での納税が可能となります。
―納税以外の具体例はありますか?
鹿島建設様の「GOヘイ!」アプリでの活用例が挙げられます。建設業界の多重下請け構造の中で、現場作業員へのインセンティブ付与にJPYCを利用しています。例えば、清掃や安全管理に尽力した下請け作業員の方に、インセンティブとしてJPYCを給付するといったことを実施されています。
また、SNSアカウントと連携してX(旧Twitter)でのチップやポイントとしての利用を可能とするTIPWAVEや、自治体向けのアイデア募集サイトでのインセンティブ付与を実現するSPARKNなど、様々なユースケースで活用されています。
―そのように、多様な用途が生まれた背景は何でしょうか?
JPYCはステーブルコインの「プログラマブルマネー」(プログラムによって自動決済や使途制限など多様な機能を付与することが可能なデジタル通貨)としての特性を活かし、APIやSDKを提供することで、多くの開発者がJPYCを活用できるようにしたいと考えています。いわゆる「無色透明な通貨」であることで、イノベーションを自由に起こすことができます。お伝えしたような事例が今後さらに生まれていってほしいと期待しています。
普及に求められるのはセキュリティと規制対応
―活用シーンが増える一方、ステーブルコインにはマネーロンダリングやセキュリティなどのリスクも指摘されています。JPYCでは、これらの課題にどのように取り組んでいますか。
ステーブルコインに関わらず、便利な決済手段は必ず悪用されるリスクがあります。そのため、取引所や発行体がゲートキーパーとなり、不正な取引をチェックし、必要があれば停止する仕組みは欠かせません。JPYCでは、AIを活用した自動監視システムと人的チェックを組み合わせて、怪しい資金の流れを検知し対応しています。ブロックチェーン技術を活用していることで、全ての取引が記録され、追跡可能であることも大きな強みです。
ユーザーの資産を守ることも最重要課題です。その一環として、先に挙げた技術的なセキュリティ対策はもちろん、法令に基づいて発行額の半額以上を供託金として法務局に積み立てています。将来的には資金移動業や信託業への移行も視野に入れていますので、その場合はさらに厳格な資産保全の仕組みが適用されます。
―規制環境の変化にはどのように対応していますか。
日本の規制当局、特に金融庁とは常にコミュニケーションを取りながら事業を進めています。ステーブルコイン関連の法整備も進んでおり、我々の事業モデルを規制の枠組みに適合させつつ、イノベーションを推進する努力を続けています。
日本のステーブルコイン領域は、一貫して規制を整備し、必要に応じて緩和する方針で進められている印象です。国家戦略の一環ということもあり、バランスの取れた規制が作られていると感じます。
―海外の規制環境と比較するとどうでしょうか。
日本の規制へのアプローチは「規制ありき」ではなく、イノベーションを促進しつつ、必要な保護措置を講じています。例えば、米国では突然厳しい規制が課されるケースもありますが、日本では段階的なアプローチが取られています。これにより、当社のような事業者は、ある程度の予見可能性を持って事業展開が可能です。同時に、利用者保護も適切に図られているため、健全な市場発展につながると私たちは考えています。
事業課題ソリューションとしてのステーブルコイン
―JPYCの企業としての強みについても教えてください。
まず、「JPYC」という名前自体が大きな強みですよね。日本の円建てステーブルコインとして、非常にわかりやすく、記憶に残りやすいブランドになっています。
また、知的財産の面でも先行しており強い特許を取得しています。例えばインボイスNFTに関する特許(特許7542890)など、ユニークかつ実用的な知的財産を保有しています。
さらに、スタートアップならではの筋肉質な体制で運営しており、コスト面での優位性があります。大手企業と比べて、同じ決済量でもより低いコストで運営できるということは、大きな強みですね。
―最近、大手企業からの出資も増えているそうですね。
パーソルベンチャーパートナーズ様や電算システム様といった、大手企業のCVCから出資いただいています。
「働いて笑おう」という新しい働き方を追求しているパーソル様は、Web3と組み合わせた新しい労働の形を模索しています。たとえば になっている「スキマバイト」も、ステーブルコインを活用することで、ユーザーへの支払いのオペレーションが大幅に改善されると考えています 。プログラマブルマネーであるステーブルコインは、そうした新しい働き方や自動化された給与支払いシステムの実現にも貢献できると考えています。
FINOLABが支える唯一無二のFinTech環境
―FINOLABに入居している理由を教えてください。
私はこれまで3社起業してきたのですが、2社目の会社を立ち上げた際にFINOLABに入居していました。その経験から再びFINOLABを選んだという経緯です。
FINOLABの最大の魅力は、「FinTechのキーパーソンと繋がれる唯一無二の場所」だということです。様々な業種の方々が、FinTechという共通基盤で課題解決を目指しており、非常に前向きな環境です。
―具体的にどのようなメリットがありましたか。
例えば、金融庁のライセンス取得時に必要な物理的セキュリティや入退室管理などの仕様を、FINOLABに入居することでほぼ満たすことができます。個社で整備するとコストがかかるため、これは大きなメリットです。
ネットワーキングの面でも大きな効果がありました。FINOLABを通じて多くの方々と出会い、今でも良好な関係を維持しています。「Meetup with FSA」という金融庁との交流イベントでは、規制当局である金融庁幹部と直接対話する機会を持つことができますし、それ以外でも頻繁にFINOLABで交流していますね。
先ほどお伝えした通り、ステーブルコインのような新しい分野では、規制との関わり方が重要です。FINOLABのコミュニティを通じて、他の企業の経験を学んだり、共に規制当局とコミュニケーションを図ったりすることで、イノベーションを推進しつつ、適切な規制環境を整備できると考えています。
その他、FINOLABのイベントスペースを借りて、全社集会を開催することもあります。社員で集まる機会を作れるのはありがたいですね。
ステーブルコインで実現する社会変革のビジョン
―ステーブルコインの今後の成長予測と、JPYCの目標を教えてください。
ステーブルコインの発行量は、5年後にグローバルで420兆円規模になるという調査結果が出ています。その中で、日本のGDPに対する割合などを踏まえると、JPYCとしては30兆円程度の発行額を目指すとしています。
―非常に大きな金額に思えます。
これが達成できるかどうかは「金利差」が大きなポイントになると考えています。現在のような低金利の状況が続けば、DeFi領域における現状の金利は3〜5%なので、ステーブルコインに流れてくる可能性は高いと見ています。今は金利差があるので、勝機は十分にあります。
―最終的にはIPOを目指しているとしていますね。
IPOはゴールではなく、JPYCにとって新たなスタートになるはずです。上場することで社会的信頼性が高まり、大企業の導入も進むはずです。また、資金調達によってさらなる成長投資が可能になります。
ただし、単なる事業拡大ではありません。日本の金融インフラの一翼を担う、より大きな責任を持って事業展開する覚悟も持っています。
―最後に、FinTech業界や、これからチャレンジする方々へメッセージをお願いします。
FinTech、特にステーブルコインの分野はまだまだイノベーションの余地が大きい領域です。その上で重要なのは、技術革新だけでなく実際の社会課題や経済課題の解決に繋げることであると考えています。
JPYCはステーブルコインを通じて、より効率的で透明性の高い経済システムの構築を目指していますが、他にも様々なアプローチがあるはずです。FinTechは金融を変えるだけでなく、社会全体を変革する可能性を秘めています。そこに挑戦する方々を、我々も全力でサポートしたいです。
企業情報
JPYC Inc.
- CEO
- Noritaka Okabe