INTERVIEWS
オルタナティブ投資の民主化を通じて、日本における投資の常識を変える。LUCAが「日本発のオルタナティブ投資プラットフォーム」で描くビジョンに迫る
2020年以降、株式や債券といった伝統的な資産に代わる投資手段として注目を集めている「オルタナティブ投資」。不確実性を増している昨今の市況において、従来の市場と異なるリスク・リターン特性を持つオルタナティブ投資は、ポートフォリオ全体でリスク分散を行うための有力な投資対象となってきました。
従来は主に機関投資家や超富裕層に限定されていたこの市場をデジタル技術によって広く一般の投資家に提供することで、投資の世界に新たな扉を開こうとするのが、LUCAジャパン株式会社(以下、LUCA https://www.luca.inc/)です。LUCAの共同創業者兼CEOであるシデナム慶子氏に、オルタナティブ投資の現状やLUCAの展望について伺いました。
広がり続ける「オルタナティブ投資」のフィールド
―オルタナティブ投資について教えてください。
「オルタナティブ」というワードが意味するように、伝統資産である上場株式や債権などに代わる新しい投資対象や手法のことをいいます。極論すると、伝統資産に含まれない全ての投資対象は、オルタナティブ投資として位置付けられるともいえますね。
―オルタナティブ投資では実際にどのような金融商品が取引されているのでしょうか?
PEファンドやヘッジファンド、未上場株式を扱うベンチャーキャピタルなどへの投資が主流です。また実物資産も対象になりますので、不動産や空港・橋などのインフラも対象になります。さらに、近年ではアートや高級時計、ワインなどもオルタナティブ投資の類と見なされ、広がりつつあります。
―オルタナティブ投資のメリットとはどういったものでしょうか。
オルタナティブ投資にはそもそも公開市場がありません。上場株式や債権の場合、市況の影響に左右され収益が大きく変動しますが、オルタナティブ投資と公開市場との相関は低いとされています。また、投資期間も5年から10年と中長期的であり、流動性が低いことも特徴です。運用にはプロフェッショナルの知見が必要とされてきました。
―公開されていなければ投資も難しかったわけですね。ちなみに投資金額の最小ロットとしては、どれくらいになるのでしょうか?
最低でも10ミリオンドル、最近のレートで換算すると15億円ほどになります。オルタナティブ投資に参入できるのは機関投資家など限られたプレイヤーのみでした。
―機関投資家以外では実際にどのようなプレイヤーが参入しているのでしょうか?
超富裕層が経営するファミリーオフィスや財団などが代表的です。
一方で、アメリカをはじめ海外を中心にオルタナティブ投資の「民主化」が進んでおり、投資金額の小口化や投資資金をロックする期間を短縮して流動化させる動きもあります。その流れを汲んで、参入できるプレイヤーが増えると考えられています。
日本であれば資産5,000万円〜1億円の準富裕層、さらに資産3,000〜5,000万円の「アフルエント」と言われる層までターゲットにしようという動きも生まれてきていますね。
投資を「ギャンブル」にしないために
―オルタナティブ投資を取り巻く日本の投資環境について、どのように捉えていますか。
新NISAのスタートなどによって投資自体に対する関心が高まっています。オルタナティブ投資についても少しずつ認知も広がり、追い風基調であるとは感じています。
一方で、日本人の投資のほとんどは「株式」とされています。しかも、投資の基本的な考え方を踏襲せずに株式取引に手を出していて、結果的にいわば「ギャンブル」という印象が拭えません。
―投資の基本とは?
投資の基本は、あくまで「長期視点」「分散投資」です。重要なのは、手元の資金をどのようにアロケーションしてポートフォリオを組むか、ということです。それが投資のプロフェッショナルが行ってきた投資というものです。しかし現在の日本では、その基本を押さえずに「当たり株」のような特定の株式に集中投資してしまうケースが散見されますね。
―日本における金融リテラシーの低さは長い間問題となってきました。正しい金融教育を受けてこなかったことも理由かと思います。なにか「一儲けできそう」な金融商品が出るたび、目新しさなどを優先してすぐ飛びつき一喜一憂する、まさに投資の基本が押さえられていないと感じられることが多いですね。
そういった基本を抑えない近視眼的投資を行っていると、市場が大きく変動した場合にすぐ疲弊してしまいます。
特に、普段仕事が忙しくマーケットを注視できない一般個人投資家は、無駄なアクションをしないのが理想なんです。大事なことは「夜ぐっすり眠れるポートフォリオ」を組むこと。私たちはそれを実現する手段を、オルタナティブ投資とデジタル技術で提供したいと考えています。
―日本の投資家におけるオルタナティブ投資の認知度についてはどう捉えていますか。
直近2年くらいで証券会社が投資会社と組んで商品を提供するようになった影響もあり、認知度は徐々に高まっていると感じます。一方で、既存の証券会社の業務はアナログな部分が多く残っているため、特に若い世代にオルタナティブ投資を広げる上でネックになりかねないと懸念もしています。
デジタルでオルタナティブ投資をもっと身近に
―ここまで、オルタナティブ投資の前提について伺ってきました。改めてLUCAについて紹介をお願いします。
当社LUCAは設立から4年目を迎え、創業メンバー3名、社員10名ほどで経営しています。日本ではここFINOLABに、また世界の金融と接続するためシンガポールにもオフィスを開設しています。
LUCAが提供しているのは、オンラインでオルタナティブ投資ができるプラットフォームです。「複雑な投資プロセスをワンストップで完結できるデジタルプラットフォームを通じて、世界基準の優良ファンドをより幅広い投資家にお届けする」ことを掲げて、事業を推進しています。
―貴社のオンラインプラットフォームではどのようなことが可能ですか?
「日本発のオルタナティブ投資プラットフォーム」として、口座開設と本人確認作業、審査から、当社がキュレーションしたファンドへの投資、レポーティング、アセットクラスや戦略・地域を踏まえた複数ファンドの比較など、オルタナティブ投資で欠かせないプロセスをオンラインで完結できるのが特徴です。
これにより、投資家は適切な投資情報を得て、迅速な意思決定が可能になります。
―ターゲット層について教えてください。
事業会社や財団の他に、個人では20〜50代の富裕層をターゲットにしています。ここが他社との差別化でもあります。
証券会社やIFA(独立系金融アドバイザー)の顧客層は主に60代以上で、デジタルを積極的に使用する世代ではありませんでした。
一方、LUCAはデジタルデバイスに精通した比較的若い富裕層を取り込むことで、他社との差別化を図っています。20〜50代はスマートフォンなどデジタルデバイスを当たり前のように使用しています。さらに自ら進んで資産状況などを把握して、動きたい時に動くという方々がほとんどです。従来の証券会社が行っていた電話やお茶飲みといったアナログなコミュニケーションはあまり好まれず、重視するのは「タイパ」。それゆえ、あらゆるプロセスがオンラインで完結できる当社のサービスは受け入れられると考えています。
同時に、証券会社やIFAの主要顧客層とは棲み分けができていますので、決して競合ではなく、むしろ一緒にコラボレーションできる対象になりうると考えています。
―すでにサービスはローンチされていますか?
実際にプラットフォームは稼働しており、ファンドを選んで投資を行うことが可能です。ファンドを中心としたパートナー企業との連携も進んでいます。
ハード・ソフト両面で感じる「FINOLABのメリット」
―FINOLABに入居した経緯を教えてください。
共同創業者が紹介してくれたのがきっかけです。「フィンテックといえばFINOLABだ」と聞き、入居しました。
―FINOLABに入居して感じたメリットは何ですか。
まずはスムーズに個室へ入居できたことですね。ビジネスの性質上、セキュリティは厳重でなければなりません。個室であることは必須条件でした。
当社のパートナー企業様のオフィスと近いのも大きいです。距離が近いからこそ、ちょっとした打ち合わせも顔を合わせてできます。大手町という立地の恩恵を受けています。
―FINOLABからは出資も受けていますね。
当社および金融ビジネス、テクノロジーに対する理解が深く、示唆に富んだご指摘を頂いています。「最近、どうですか?」と気にかけてくださいますし、入居した方とのネットワークづくりも含めて、FINOLABの環境には満足しています。
―今後の事業の展望について教えてください。
第二種金融商品取引業の登録が2024年7月に完了し、本格的に事業展開できる環境が整いました。ただ、オルタナティブ投資の認知度が上がっているとはいえ、参入する投資家はまだまだ少ないです。だからこそ、マーケティングを推進して、オルタナティブ投資に対する認知度をより高め、正しい知識を啓蒙していく必要があると考えています。
プラットフォームのアップデートも随時行っています。投資パフォーマンスの可視化やブロックチェーン活用など、取り組みを加速させたいです。日本はこの分野で出遅れたからこそ、最新のテクノロジーを活用することでリープフロッグできるポテンシャルを秘めています。その可能性を信じていますし、日本国内のみならず世界市場を見据えて、オルタナティブ投資の新しいスタンダートを築いていきたいと思っています。
企業情報
luca.inc
- CEO
- Keiko Sydenham