INTERVIEWS

刺激を受け続け、事業をスケールさせる。気鋭のインシュアテック企業 SasukeがFINOLABから見据える未来とは

保険業界にデジタルテクノロジーを活用し業務改善や事業開発を行う、いわゆる「インシュアテック」が活況を示しています。私たちの生活に安心をもたらす保険市場は、国内の生命保険だけで38兆円とも言われている巨大マーケットですが、ことデジタル化の実情は、金融業界の中でも進んでいるとは言い難いとされています。 2016年に創業したSasuke Financial Lab株式会社(以下「Sasuke」)は、インシュアテックの未来を信じ、大きな展望を描くスタートアップです。同社CEOの松井 清隆氏に保険業界の課題とインシュアテックの可能性、そして現在入居中のFINOLABが果たす役割について伺いました。

97〜98%が対面。保険販売がアナログな理由

―事業内容を教えてください。

私たちは「日本の保険業界をインシュアテックで変革し、本当に必要な保険だけを、ユーザー自身が選べる世界を実現します」というミッションを掲げ、消費者向けのオンライン保険サービス「コのほけん! (https://konohoken.com/)」と、保険会社、保険代理店向けに、保険に関わるマーケティング、クリエイティブ、システム開発といったソリューション提供しています。

どちらの事業にも共通しているのは、デジタルを通じて、自らに適した保険を消費者が選び、事業者が提供できるようにするということです。2016年に会社を立ち上げてから、一貫して取り組んできました。 近年、金融業界のデジタル化がスピードを上げています。銀行や証券のデジタル化はかなり進みました。例えばオンラインバンキングの口座の普及率も右肩上がりです。 しかし保険業界に目を向けてみると、生命保険商品の97〜98%は、おそらく現在も対面で販売されています。金融業界でデジタルに対するハードルが唯一残っている業態とも言えるでしょう。

 

―なぜここまで対面販売が多いのでしょうか。

保険選びの得意な消費者はほとんどいらっしゃらないということが、大きな要因と考えています。例えば投資であれば、自分が好きな企業の株を買うとか、自分が好きなテーマの投資信託を買うとか、素人でも選んだり、学んだりできる世界ですよね。また、住宅やマンションを購入する際には、ローンの選択肢を自ら選ぶことでしょう。 しかし保険選びとなると、そもそも人生で数回しか契約する機会がないのが実情かと考えられます。生命保険や医療保険など数十もの種類の保険から、その時点での自分自身にどういった保険が最適なのか、明確に理解することは難しいのではないでしょうか。 また、保険は万が一の状況に備えるための商品ですが、普段の生活からその万が一のことを考え続ける人も少ないはずです。だからこそ、いざ必要となった時を想起させニーズを引き出したり、商品を提案したりするのには、対面が有効なのでしょう。デジタルが入り込みにくい領域でもあるかと思います。

自分に合った保険を、自分で選べる世界に

―Sasukeと消費者とのタッチポイントは?

基本的には、当社が提供している「コのほけん!」というオンライン保険サービスにご訪問いただきます。そこで保険を選んでいただき、申し込み自体は保険会社のサイトで行っていただくという流れです。加えて、対面でのコンサルティングを希望するお客様には自社のFPとご面談いただき、ご加入いただくこともできます。法人向けの特殊な保険などを除いて、生命保険・損害保険・医療保険など、一般消費者を対象とした保険商品はほぼ網羅しています。

―保険の比較サイトは他にもありますが、それらとの違いを教えて下さい。

3つの特徴があります。まずは、「専門家のコメント」が記載されているということが1つ目です。保険商品ごとの解説が掲載されていますので、商品のポイントが理解しやすくなっています。 2つ目の特徴は、その商品を実際に契約した方による「口コミ」です。実際に商品を契約して、いざというときにどういった対応だったのか、消費者の生の声から判断しやすくなります。 そして3つ目は「保険ロボアドバイザー」の提供です。7〜8個ほどの質問に答えていただくと、その回答に合わせ、今の状況に適切な保険をカスタマイズして提案しています。

―対面販売が97〜98%を占めている現状で、消費者が保険商品を選ぶ際に「コのほけん!」を訪問するきっかけは何でしょうか?

時代の大きな流れとして、保険に限らず商品を購入するにあたって、消費者は事前にWebを検索し、調べたり、比較検討したりしてから、実際の購買を行うようになっています。実は保険も例外ではありません。保険商品の対面販売でも、消費者が事前に調べているケースがほとんどのようです。そういった消費者行動の変化が、対面販売に偏っているこの業界において、消費者が当社と接点を持つきっかけになっています。 また、保険について考えるタイミングは人それぞれですよね。今加入している自動車保険が満期を迎えるタイミングでより安い保険を探したり、これまで保険に関心がなかった方が必要に迫られて探したりと、保険商品の購入を検討するきっかけは本当に多岐にわたります。そういった状況において、デジタル上で様々な顧客への提案ポイントを持つ当社のサービスは、消費者の多様なニーズをうまく汲み取れているのではないかと考えています。

―企業向け事業についても教えて下さい。消費者がデジタル上で契約できる仕組みなども、Sasukeで開発して保険会社に提供しているのでしょうか。

企業向け、いわゆるBtoBの事業では、保険会社のデジタル化を推進するために、オンライン申し込みシステム開発などを通じてご支援しております。これまで保険を販売するにあたって対面だったところがデジタルを活用することで、保険会社の収益モデルは大きく変わるでしょう。 日本はこれから少子高齢化で人口減少が進みます。保険を契約する消費者も減るのと同様、販売するセールス人員も減っていきます。しかし市場がシュリンクしても、デジタルの力を使ってコスト構造を変革することで、今まで以上に利益を確保することも可能だと考えています。

 

FINOLABのメリットは「立地」と「認知」、そして「入居企業」

―Sasukeを創業したきっかけを教えてください。

私はアメリカのロサンゼルスにある大学を卒業してから、リーマンブラザーズに就職しました。しかし、いわゆる「リーマンショック」によって会社が破綻し、野村證券に移ることになりました。野村證券で、ある保険会社の株式会社化・IPOを支援するプロジェクトにアサインされたことが保険業界との接点になり、理解を深めていくきっかけでした。その後、資産運用会社に転職し、その経験を通じて痛感したのは、金融商品に付随する「情報の非対称性」の問題です。保険を販売する側と購入する側で持っている情報に大きな差があったこと。これを解決したいという思いを強く持ちました。 一方、2016年当時はフィンテックという言葉が広まり始めていました。投資などの分野に関する情報の非対称性に起因する課題は、デジタルテクノロジーの活用によって解決されるかもしれないという期待感もありました。しかし、保険についてはまだ途上で、だからこそそこにビジネスチャンスがあるのではと考え、創業しました。まだ「インシュアテック」という言葉もなかった時代ですね。

―創業して間もなく、FINOLABに入居された経緯を教えて下さい。

もともとFINOLABに関連する記事を読んで、問い合わせをしました。当時はシェアオフィスそのものがまだ珍しく、また当社もフルタイムで働くメンバーも3名ほどだったので、ちょうど良いのではないかと思いました。加えて、「フィンテックの中心地」というメッセージも魅力に感じました。

 

―入居以来、シェアオフィスから個室に移り、拡大を重ねて入居していらっしゃいます。FINOLABに入居し続ける理由は何でしょうか?

まずは立地ですね。やはり大手町駅直結というのは大きいです。クライアントである保険会社も大手町、丸の内を拠点にしていることが多いですし、FINOLABという場所の業界認知も高いことがメリットの1つですね。加えて、フィンテックに関連する企業が集まっている点にはやはりメリットを感じます。当社のメンバーも、その意識の持ち方など刺激を受けていることが多いですね。 FINOLABではインシュアテックのミートアップも定期的に開催されており、私だけでなくメンバーも頻繁に参加して交流を深めています。また、入居する企業については、FINOLAB側で審査されていることも重要です。事業に明確なテーマを持ち、かつ信頼できる人たちが集まっているということは、大変安心できるポイントです。

FINOLABコミュニティから刺激を受け続けたい

―FINOLABにはコミュニティやファンドなどさまざまな機能があります。実際に活用したサービスはありますか?

コーポレートサイトに掲載する動画を制作してもらいました。主要メンバーのインタビュー動画ですが、FINOLABが動画制作の機能を持っていることを関係者の方と交流する中で知りまして。実際にこちらのリクエストにも応えていただき、非常に満足がいく動画が完成しました。

―保険やフィンテックをテーマにした動画を制作するのは、一般に馴染みがない業界ということもあり難しいと思います。

そうですね。事前準備の段階から、制作チーム、動画クリエイターの方と共にFINOLABの方も打ち合わせに同席していただき、間を取り持ってくださいました。このようなサポートが受けられるのも、FINOLABの魅力かと思います。

―FINOLABへの今後の期待を教えてください。

今後はさらに、ビジネスマッチングの機会を作っていただけると良いですね。保険業界でも、最大手の企業は自前でデジタル化を推進されています。しかし、それが実現できているのは一握りの企業という感覚ですので、まだまだデジタル化のスピード感に課題がある、何とかしたいけど、何からデジタル化したら良いのか見当がつかない。そんな企業様とFINOLABで出会いたいですね。

―最後に、FINOLABへの入居を検討しているスタートアップにメッセージをお願いします。

フィンテックやインシュアテックなど共通のテーマを持った企業や人々が集っているのが、FINOLABの大きな価値だと思います。シェアスペースでは、ブロックチェーンから証券・決済・保険・銀行などの様々なジャンルの話が日常的に交わされていて、非常に刺激を受けます。事業をスケールさせるヒントがここで得られるはずです。この輪にぜひ、加わっていただきたいですね。

企業情報

Sasuke Financial Lab

CEO
Kiyotaka Matsui

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