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スタートアップと個人投資家をつなぐ株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」。FINOLABをフル活用して描く「持続的三方よし」の世界とは

新たな挑戦を目指す起業家にとって、資金調達は常に大きな課題です。日本国内のスタートアップ投資額は年間1兆円規模に迫る勢いを見せていますが、そのほとんどは独立系ベンチャーキャピタルや金融系ベンチャーキャピタル、事業会社となっています。デジタル技術が普及するなか、より多くの個人がスタートアップ投資に参加できる仕組みが求められています。
イークラウド株式会社(以下「イークラウド」)は、株式投資型クラウドファンディングを通じて、スタートアップと個人投資家を結びつけるプラットフォーム「イークラウド」を運営しています。自身も起業、投資両輪の経験を持つ同社代表の波多江 直彦氏に、日本の投資環境における課題、株式投資型クラウドファンディングの可能性、そして現在入居中のFINOLABの役割について伺いました。
起業と投資、両輪の経験から得た気づき
―イークラウドの事業を教えてください。
私たちイークラウドは、スタートアップと個人投資家をマッチングするプラットフォームである、株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」を中核として 運営しています。
―波多江代表は、どういったご経験からイークラウドの創業に至ったのですか?
私は学生時代から起業を志していて、ビジネス経験を積むことを大きな目的にサイバーエージェントへ入社しました。サイバーエージェントではまず営業やマーケティングを学び、CtoCのオークション事業を立ち上げるなど、社内起業も経験することができました。その後3年間、グループの投資事業であるサイバーエージェント・ベンチャーズに在籍した後、XTech Venturesのパートナーを経て、2018年にイークラウドを創業しました。
―インターネットビジネスでの事業立ち上げとベンチャーキャピタリスト、両方の経験が、現在のビジネスにつながっているのですね。
とはいえ、はじめから投資に理解があったわけではないのです。FXやネット証券を試してみるくらいで、一般的な知識以上は持ちあわせていませんでした。
―ベンチャー投資に興味を持たれたのはどのタイミングですか?
サイバーエージェントで新規事業としてオークション事業を開始し、子会社化したときです。競合する企業が、外部の事業会社やベンチャーキャピタルから資金調達し、事業を拡大していったのです。
それまで私は、サイバーエージェントの潤沢なリソースを活用し新しい事業にチャレンジできることは非常に強いメリットだ、と考えていました。ところが、社外から数億、数十億と調達するようなスタートアップが現れ、市場のゲームが変わっていく。このロジックが理解できないと、これからビジネスの世界で勝負できないと、強く感じたのがきっかけです。
私が投資部門に移籍した当時、日本のスタートアップ投資額は年間1,000億円程度でした。それから金額は急激に上昇し、今では1兆円に迫っています。資金調達の環境が一気に変わっていくタイミングを目の当たりにし、その過程を体感してきました。
イークラウドは「自分がやるべき事業」
―株式投資型クラウドファンディングを選択したのはなぜですか?
日本における投資額が増えたとはいえ、米国の、年間で20兆円から最大で50兆円という規模のリスクマネーがベンチャーキャピタルから供給される状況と比べれば、微々たるものといっても過言ではありません。現状の延長線にあっては、日本から世界に羽ばたくようなスタートアップが生まれ、育つことは極めて難しいという危機感がありました。
一方で、日本には2,200兆円を超える個人金融資産があります。そのうち1%をスタートアップに回すことができれば、22兆円。米国の投資金額に匹敵します。取り組むに値する非常に大きな意義があります。
新規性がありチャレンジングなスタートアップに投資意欲を持つ個人投資家は少なくないながらも、実際に上場する前の企業にアクセスすることは容易ではないという課題は、ベンチャーキャピタリストとして理解していました。加えて、その時々で注目度の高い一部のテーマに対して投資が集中してしまう構造的な体質にも課題を感じていました。
―その課題がイークラウドにつながっていくということですね。
多様な価値観を持つ個人投資家が、それぞれの軸で興味を持ったスタートアップに対して、自分が許容できる範囲のリスクで投資をしていく。それを元手に、より多くの挑戦が具体的なステップを進めたり、有名ではないが実力と意欲のある知られざる起業家に資金と仲間が集まったりしていく環境をつくらなければと考えました。
それに、この領域ではインターネットビジネスと投資、両方の経験が活かせます。「自分がやるべき事業だ」と信じて創業しました。
調達金額は約50社で10億円、成長する株式投資型クラウドファンディング市場
―改めて、株式投資型クラウドファンディング「イークラウド」のサービス内容を教えてください。
「イークラウド」はインターネットを通じて多くの個人投資家がスタートアップに対して小口の投資ができるプラットフォームを提供しています。株式投資型クラウドファンディングは、非上場のベンチャー企業、いわゆるスタートアップが、インターネットを通じて1年間に1億円未満の資金調達を行うことができる仕組みで、2015年の金融商品取引法改正に伴い実現しました。
(注:2025年2月25日に法令が改正され現在の上限額は5億円未満)
―出資を受けたいスタートアップはどのように「イークラウド」を利用できるのでしょうか?
調達を希望するスタートアップが「イークラウド」に掲載されるためには、当社の審査を通る必要があります。所定の審査を経て採用されれば、その事業計画や募集情報、投資のリスクなどの情報を、私たちが投資家向けに整理して、募集ページに掲載し、契約締結前交付書面等を提供します。
「イークラウド」へ登録している個人投資家は掲載されたスタートアップに対して投資を行うことができます。
―具体的にはどのような規模感の投資が行われているのでしょうか。
具体的な金額で言うと、例えば企業が提示する3,000万円の募集額に対し、200人の個人投資家が出資するといったイメージです。最低投資額は約10万円からとすることが標準的なケースで、募集する企業によって特定投資家の場合には個人で50万円超~1,000万円程度を投資することもできます。
現在のところは、シードからアーリーステージのスタートアップが中心です。
―業種などの制約はありますか?
個人投資家向けに人気が出やすいのはC向けのサービスや商品を提供している会社で、たとえば、シェアリングエコノミーのプラットフォームやクラフトビールの会社などがわかりやすい事例ですが、素材系のディープテックの会社や創薬ベンチャーまでさまざまな利用事例があります。2020年のサービス開始以降、これまでおよそ50社に対して、トータルで10億円以上の資金調達を支援してきました。
―クラウドファンディング型ならではというメリットはありますか?
「イークラウド」に登録されている個人投資家の会員は30代から50代の男性が多いです。経営者や経営幹部など、ビジネスで活躍されている方も多く投資したスタートアップに対して協業や取引先に紹介したりする方もいます。スタートアップ側にしてみれば「非常に優秀な人が自発的に外部で働いてくれる」存在といっても良いかもしれません。今までベンチャーキャピタル等が実施していたスタートアップ支援を、株主のコミュニティがサポートしているイメージですね。これは嬉しい驚きでした。
一方、スタートアップの事業フェーズによっては、「応援してくださる方を増やしたいが、株主は増やしたくない、」というニーズもあります。そのため2024年から新株予約権の取り扱いも可能にするなど、プラットフォームとしての支援方法も拡充しています。
FINOLABはフィンテックスタートアップがフル活用できる場所
―株式投資型クラウドファンディングの草分け的な存在として進んできたなかで、ハードシングスはありましたか。
一番ハードだったのは創業時ですね。金融商品取引業者として第一種少額電子募集取扱業者の登録を完了して事業を開始するまでに、約2年を要しました。
実は創業前、金融業の登録経験のある方に聞いたところ、登録には最低10カ月かかると言われていました。ならば私たちは6カ月で!と目標を掲げ、社員も採用し、開発も進めていたのですが…。
スタートアップは時間との戦いです。「いつ事業が開始できるのか」「それまで資金は持つのか」と、正直、とても不安でした。
金融のような規制業種は、自分たちだけでコントロールできない部分が大きく、それを嫌う企業も少なくありません。しかし、私たちは、壁をクリアして参入できれば大きなチャンスがあると考えあえて飛び込みました。実際に、株式投資型クラウドファンディングを行っている競合は数社しかありません。
―リスクを取ってチャンスを掴みにいったということですね。
金融業は時代の流れでルールが変わることもありルールがどのような方向に変わる可能性があるのか、情報を適宜キャッチアップしておくことがとても重要です。その意味では、今入居しているFINOLABではフィンテックの経営者同士が情報交換できたり、来訪される金融庁の方や各ステークホルダーと直接話ができたりする環境はありがたいですね。
―入居時期は比較的最近(2024年9月入居)とのことですが、FINOLABを選んだ理由は何でしょうか?
今回、FINOLABを選択した一番の理由は金融業を営む関係上、セキュリティです。基本設計としてセキュリティ要件が加味されているのが非常に大きいですね。
社員は出社とリモートのハイブリッドで、オンライン/オフラインのミーティングが多いのですが、会議室やテレカンブースが充実していて、その点でも相性がよいと感じています。また、ビジネスパーソンが立ち寄りやすい立地で、イベントスペースも気に入りました。今までイークラウド主催としては年に一度のイベントを開催していましたが、今後は1カ月に一度のペースで開催していきたいと考えています。そういう意味では、さまざまな設備をフル活用できるオフィスですね。
また、すぐ近くにスタートアップの方々がいること自体、非常に刺激になりますし、中には資金調達のご相談をいただくケースもあります。入居企業と業務提携も進めています。お互いを理解して信頼関係をつくるうえでも、フィンテック起業がFINOLABに入居するメリットを感じています。
「持続的三方よし」のもと、世界を変える事業を支えていきたい
―今後の展望を教えてください。
ここまで私たちは、シードからアーリーステージのスタートアップを中心にご支援してきました。これからは、ミドルステージや、上場前のレイターステージの企業向けに、より大型の調達にも対応できるよう、体制整備を行っています。
私たちの行動指針のひとつに、「売り手よし、買い手よし、世間よし」に時間軸を加えた「持続的三方よし」があります。そのとき業績がよくても、数年経てば環境が変わり、損失を出すこともあるのが投資の世界です。だからこそ、長期的に三方よしが実現できるように、支援するスタートアップを選定すると同時に、投資家に説明責任を果たしていくことが大切だと考えています。
―投資家、スタートアップにとってどんな存在になりたいですか?
私たちイークラウドは、「ひとりひとりの想いをつなぎ、挑戦に力を」というミッションを掲げています。一人の起業家が世の中を変える事業をおこし、共同経営者や社員、投資家と仲間が広がっていく、それがスタートアップです。その挑戦における「0→1」の創業期のフェーズから、ミドル・レイターのステージ全般で個人投資家の応援団をつくり事業を加速するプラットフォームになりたいと、私たちは考えています。
企業情報
Ecrowd Inc.
- CEO
- Naohiko Hatae