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若い世代のキャッシュレス決済を後押しするクレジットカード「Nudge」の革新性。FINOLABから未来の金融体験を創造する。

日本ではじめてクレジットカードが発行されたのは1961年。大きく普及に貢献したのは1964年の東京オリンピックとされています。それから60年、「キャッシュレス」という決済方法はどう変化し、私たちの生活に影響を与えているのでしょうか。
新しい金融体験を指向するナッジ株式会社(以下「ナッジ」)が提供するのは、スマートフォンネイティブのクレジットカード「Nudge」です。行動経済学の文脈で「人々が自分自身にとってより良い選択を自発的に取れるようにそっと後押しする」ことを社名にする同社が、現在の日本におけるキャッシュレス決済の現状をテクノロジーでどう進化させようとしているのか、代表取締役 沖田貴史氏に伺いました。

 

「キャッシュレス後進国」〜日本におけるキャッシュレス決済の歴史と変遷

 

―ナッジの事業について教えてください。

 

私たちナッジ(https://nudge.works/)は、日本における未来の金融体験を創る「チャレンジャーバンク」を目指すフィンテック企業です。サービスとしては、スマートフォンアプリと連動する次世代型クレジットカード「Nudge(ナッジ)」(https://nudge.cards/)を提供しています。

 

―事業を立ち上げた背景はどういったものでしょうか。

 

第一には、日本のキャッシュレス化が遅れているという危機感が大きくありました。その認識が持てないかもしれないですが、かつて日本は「キャッシュレス先進国」でした。iモードが登場し、携帯電話でEコマースができて、Felicaを搭載した「おサイフケータイ」も普及していた当時の日本は、世界の最先端だったのです。

 

その後、iPhoneの登場により、いわゆる「ガラケー」からスマートフォンへとデバイスが置き代わりました。日本はその流れに乗るのに時間がかかってしまった。PCがガラケーになりスマートフォンへと段階的に移行してきた日本と異なり、例えば中国では一足飛びでスマートフォンに移行しました。ゆるやかに変化した日本のユーザーとくらべて、非連続的に変化した中国のユーザーはその利便性を強く体感できたはずです。

 

QRコードが開発されたのは1994年の日本でしたが、それを用いたキャッシュレス決済をスマートフォンのアプリで実現したのは中国でした。AlipayやWeChat Payが爆発的に普及しましたよね。結果としてQR決済は中国において主要な手段となり、逆輸入のような形で日本にも遅れて入ってきました。

 

私は大学在学中の1990年代からフィンテックに関わっているのですが、この現状をもどかしいと感じています。かつては、海外で展開するペイ系サービスビジネスの幹部から「日本の電子決済をはじめ、モバイルのことを教えて欲しい」と請われていました。しかし、今は立場が逆転してしまいました。

 

―ナッジの設立はいつですか?

 

2020年2月です。

 

―コロナ禍になり、キャッシュレス決済の利用が伸長した印象があります。

 

確かにコロナ禍でキャッシュレスが伸びたのは事実です。ただコロナ禍以前から、東京オリンピック2020や観光インバウンドの影響でキャッシュレス決済市場は伸びるだろうと予想されていました。

 

―それでも世界と比べると、日本のキャッシュレス決済の現状は遅れていると言われます。

 

日本では、特に若い世代におけるキャッシュレス決済利用率の低さが課題です。若い世代は情報感度が高く、流行に乗りやすいように思えますが、実は真逆の状況。それが、「Nudge」を立ち上げた、もうひとつの背景です。

 

キャッシュレス決済と聞くとQRコードや非接触を思い浮かべられるかもしれませんが、決済の8割ほどは、実際にはクレジットカードが占めています。日本の若い世代はクレジットカードの利用率が低いため、結果的にキャッシュレス率も低いというわけです。私たちはこの部分にテコ入れする余地があると考えているのです。

安全、安心で若い世代に寄り添う「ファーストカード」体験を提供

 

―日本の若い世代のキャッシュレス普及率が低いということでしたが、海外ではどうでしょうか。

 

アメリカやヨーロッパで一般的なのはデビットカードです。それらの地域の場合、若い世代がクレジットカードを作るのは審査などの点でハードルが高いのです。日本の場合は若い世代でも比較的クレジットカードが作りやすく、デビットカードよりもクレジットカードの方が普及しやすいという前提があります。
デビットカードを利用する際の体験にも問題があると考えています。デビットカードの場合、サブスクリプションサービスで利用できなかったり、Eコマースでの決済タイミングがクレジットカードと異なるため体験として損なわれる部分があったりします。

 

一方で、若い世代にはクレジットカードに対する心理的ハードルがあることも事実です。「使いすぎてしまうのでは」という心配だったり、親世代から借金やリボ払いなどに対してのネガティブなイメージを持たされていたりします。私たちの「Nudge」は、そこにビジネス機会があると捉えています。

 

―「Nudge」の特徴を教えてください。

 

「Nudge」は、クレジットカードとスマートフォンのアプリが完全に連動していることを前提に開発された次世代型クレジットカードのサービスです。クレジットカードですが、申込みの段階からスマートフォンアプリのみで対応しています。

ターゲットとしているのは、18歳以上の若い世代です。まず安心に思ってもらえるように、利用上限金額を「Nudge」側で堅実に設けていることに加え、返済可能なタイミングを決済の翌日から対応できるようにしました。アプリ上で利用金額をタイムリーに把握できますので、「使いすぎ」の懸念も払拭することができます。もちろん利用状況に合わせて利用上限金額を増やすことも可能です。

 

カードの不正利用に対しても、常にアプリで利用状況を確認することができますし、仮に発生した場合でもユーザーがその責を負わないように設計しています。一般的なクレジットカードのサービスの場合、調査を依頼するのにもサポートセンターに電話を掛けて待たされてしまうことがありますが、「Nudge」であればアプリからすぐ調査依頼を出せることも、安心につながります。

 

―クレジットカードを使うトレーニングのようですね。

 

まさに、私たちは「Nudge」を若い世代のファーストカードとして使ってほしいと考えています。スマートフォンネイティブを基本設計としていますので、体験として使いやすいのはもちろんですが、やはり安全で安心であることが最も重要なことだと考えています。

 

エコシステム・パートナーとともに、新しい未来の金融体験を創る

 

オリジナルの提携クレジットカードを発行できるのも「Nudge」の特徴のひとつです。提携先を「クラブ」と表現していまして、ユーザーが好きなクラブ、「推し」のクラブのクレジットカードを保有し、使うことができます。ユーザーが普段通りクレジットカードを使うことで、ユーザーはクラブから特典を、クラブは収入源を得られる、いわゆるファンコミュニティとエンゲージメントの施策として活用可能です。 まさに、私たちは「Nudge」を若い世代のファーストカードとして使ってほしいと考えています。スマートフォンネイティブを基本設計としていますので、体験として使いやすいのはもちろんですが、やはり安全で安心であることが最も重要なことだと考えています。

 

様々な業種業態のクラブが生まれていて、サービスローンチからその数は100を越えています。

―カードの絵柄も多種多様ですね。

 

このオリジナルの提携カードは1枚から印刷、発行することができます。当社に出資いただいているTOPPAN社の技術を活用しています。

 

―スタートアップでクレジットカードビジネスを展開しているケースは少ないかと思います。

 

スタートアップというカテゴリーが正しいかは別として、いわゆる新興企業でクレジットカードの発行を実現できているのは、メルカリさんや楽天さんなどに限られますね。クレジットカードライセンスの認可に関しても、関連法規制を遵守し、登録を受ける必要があります。スタートアップがこのビジネスに参入するのはハードルが高いといえるでしょう。「Nudge」は「登録少額包括信用購入あっせん業者」として登録を完了しています。2020年6月に改正され2021年4月から施行された令和2年度改正割賦販売法により新設された登録事業者としては、ファミマデジタルワンに次いで第2号でした。

 

加えて決済システムの特性として、その安定性は必須です。ナッジが採用しているのは、クラウドベースのサーバレス・マイクロサービスというモダンなシステムです。アプリの開発スプリントも2週間を基本としたアジャイルで行っていて、頻繁なアップデートを行っています。

 

もちろん、私たちのシステムだけでは、クレジットカードの堅牢な基幹システムは補えません。この領域では、クレジットカードの基幹システム国内シェアが50%を越えている、かつナッジへの出資企業であり、創業パートナーでもあるTIS社とのシナジーが発揮されています。

 

―自前主義ではなく、パートナーとの連携が重要ということですね。

 

資金調達という面では、ある領域では競合関係にあるような企業にも出資を受けています。金融システムは重厚長大で、新しいチャレンジを行うにしても、それを実行するための難易度が非常に高くなります。そのため、新しい未来の金融体験を創るためには私たちのような「チャレンジャーバンク」の存在が必要であると共感していただいていることの証左であると理解しています。

 

密なコミュニケーションをとって事業成長をアシストするFINOLAB

 

―FINOLABとの関係を伺いたいのですが、いつ頃からご存知でしたか。

 

設立前から、その存在は認識していました。

 

―入居にあたってメリットと感じる部分はどこでしょうか?

 

まずはFINOLABの立地ですね。日本における金融の中心である大手町に拠点を置くということは、取引先に信用されるために非常に大きい要素です。入居企業も審査を経ているフィンテック企業ですので、ネットワーキングでもメリットがあるのではないでしょうか。

 

入居にあたっても、相談時からこちらの要望にスピーディーに対応していただき、大変助かりました。私たちはビジネス特性上、特にセキュリティのルールは厳格で、入退出記録や専用ネットワークの敷設が必須です。FINOLABとは密にコミュニケーションを行いながら、こちらのリクエストに応えていただけていますね。こういった関係性は非常に重要だと思っています。

 

―最後に、これからのナッジのビジョンを教えて下さい。

 

私たちは、「ひとりひとりのアクションで未来の金融体験を創る」をミッションに掲げています。 若い世代や学生インターンが企画を主導してスタートするマーケティング施策やキャンペーンはその一環です。「ファンミーティング」や「学生部」といった取り組みがそれに当たります。どんどんチャレンジしてもらっています。

 

これまでの金融サービスを考えてみると、企業側から消費者へ情報やサービスを一方的に提供するケースがほとんどでした。もちろん金融という性質上どうしてもそういった方向にならざるを得ない場合もありますが、私たちはそれを双方向性にデザインしたいと考えています。

 

ナッジが適切なサービスをしっかりと提供することはもちろんですが、ユーザー側からの「こんな面白い体験ができるね!」という発信とコミュニケーションを起点に、未来の金融体験を生み出していきたいですね。

企業情報

Nudge Inc.

CEO
Takashi Okita

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